自動車事故を減らすテレマティクスと自動運転技術

1 はじめに

2017年に発生した交通事故は47万2,165件、このうち死亡事故は3,630件、負傷者は58万850人にのぼります。そして、その大半は自動車によるものです。従業員が自動車を運転する業務を抱える場合はもちろん、プライベートで自動車を運転することも含めれば、事業者にとって自動車事故は大きな課題のひとつといえるでしょう。

出典:「平成29年中の交通事故の発生状況」(警察庁)
(https://www.npa.go.jp/news/release/2018/20180213001H29zennjiko.html)

2 事業者に求められるのは従業員にとって納得感のある教育

事故は起こした当人の責任が大きいものですが、過剰な勤務時間による疲れが原因となっているようなケースもあり、当事者を責めて反省を促すことだけでは、再発を防止することは困難です。

国土交通省は、トラックやタクシー、バスなどの旅客自動車運送事業者と貨物自動車運送事業者に向けて「事業用自動車の運転者に対して行う指導及び監督の指針」を発表。すべての運転者に対し、運転に際しての心構えから自動車の構造、危険予測、健康管理の重要性など、多岐にわたって理解を深めることを求めています。また、交通事故を起こしてしまった運転者には、再発防止策の徹底や安全運転の実技指導を行うことを記し、この履行を事業者に要求しています。

そのために必要な指導マニュアルとして、「脳血管疾患」「睡眠時無呼吸症候群による睡眠不足が原因の漫然運転や居眠り運転」といった運転中に起こりうる運転者の異常に対するものから、「ドライブレコーダーを活用」「トラック追突防止」など、具体的なものまで幅広くそろえられています。事業用自動車に関連する事業者はもちろん、自動車を扱うすべての事業者は必ず目を通し、従業員教育に役立てるべきでしょう。
ただし、これらの知識を正しく身に付ける事は大変重要なことですが、従業員にとって納得感のある教育に結び付けられないと、実際の事故削減にはつながらないようです。

出典:国土交通省「自動車総合安全情報/運転者に対する教育」
(https://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03safety/instruction.html)

出典:国土交通省「自動車総合安全情報/安全教育・事故防止マニュアル」
(http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/03manual/)

3 テレマティクスが従業員にとって納得感のある教育の見える化をサポート

交通事故を起こしてしまった運転者の教育には、その運転者の横に同乗して指導を行うことが望ましいとされていますが、これをすぐにでも実施できる事業者はそれほど多くないでしょう。そうした現状を踏まえ、代わりの手段として現在多くの企業が採用しているのが「テレマティクス」です。

テレマティクスとは、自動車向けの次世代情報提供サービスのことで、インターネットを通じてさまざまな情報を収集したり、情報を提供したりするものです。一般の消費者に向けたものとして「カーナビで電子メールを送受信」「天気予報や渋滞情報の受信」などのサービスがすでに始まっています。

事業用の自動車に向けたサービスでは、車載した専用端末が運転データを集めて分析するものが登場しています。例えば、AIG損保が提携した株式会社スマートバリューの「スーパードライブガード」では、収集した走行データを分析し、運転傾向を「客観的」に評価してくれます。また、急ブレーキなど事故につながる運転を検知した場合には、事業者に対し「緊急通報」を送るサービスが受けられます。

運転者本人は、自身の運転がデータをもって客観的に分析されるため、運転傾向を知り、特に注意すべき運転ポイントを日々つかむことができます。事業者は、従業員の運転傾向と将来的な事故の起こしやすさをつかめるため、事故を未然に防ぐための教育を行なえるメリットがあります。

テレマティクスは、従業員の運転が明らかになるため、導入時の心理的なハードルがありますが、誰にとっても起こす必要のない事故を未然に防ぐことは、事業者だけでなく従業員やその家族を守ることにつながります。自分の運転が客観的に分析されることが、従業員に対して納得感を与えていると導入企業の多くが実感しているようです。

出典:AIG損害保険株式会社「テレマティクスを活用した『スーパードライブガード』『マイドライブガード』の開始について」
(https://www.aig.co.jp/sonpo/company/press/20180330)

4 国も自動運転実現によって交通事故死者の減少を図る

2018年4月1日、内閣府は「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 自動走行システム開発計画」を発表。これによると、「2020年までに交通事故死者数を2,500人以下」にして、世界一安全な道路交通を実現することを目標としています。

そして、それを達成するために必要なこととして「自動走行システム」の実現と普及を挙げ、ロードマップも描いています。将来的に「自動走行システム」の普及が進めば、交通事故は削減されるでしょう。ただし、目標達成のためには、「自動走行システム」など車のハード面の改善だけでは足りず、交通環境の改善や人への啓発などが必要であると記述されていることにも注目すべきではないでしょうか?ソフト面の改善として継続的な従業員の教育が欠かせません。

出典:内閣府「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP) 自動走行システム開発計画」
(http://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip/keikaku/6_jidousoukou.pdf)

 

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